10代の着物の提案




 長いこと着物の世界に携わって来ていつも気になる事があります。それは着物はじめが成人式を迎えた時がスタートだというのが、ほとんど事実ということです。
 この事実については、いつも私が唱えている持論でもある、初めて大人の着物に向き合う時が成人式では遅すぎるスタートと言う事なのです。



10代の着物姿の魅力



 私の手元に昔の少女の写真があります。明治、大正、昭和の中頃まで女性たちが着物の時代であったときには女の子は着物を日常的に着る機会があり、暮らしに密着していた衣服として過ごしていました。

ティーンの着物 あどけなさの残る少女たち、今でいうところのローティーンからハイティーンにかけての着物姿はとても可愛いく愛らしいのです。

 まだお化粧気のない顔立ちと幼さの残る体つきでどこかあどけなさも宿る仕草など、大人になりきっていない10代は女性としての未知数の魅力を抱えて、貴重な年頃に思えます。

 少女から大人へと変化して行くこの年頃こそ着物に親しむ機会が昔のようにあったらいいのにと考えてしまいます。
 しかし現代、その年頃の子たちは受験や勉強に追われて着物の生活を楽しむなどという環境にはありませんから無理なのかも知れません。

 現実には大学生になってからとか、仕事に就いてからとか、二十歳を眼前にして急に成人式の着物を用意しなくてはと、お家の方と共に慌てて考えるのが現状のようです。
 数々の広告やチラシが舞い込み、色々な作り方、買い方があることにも気が付くようです。
 最近ではレンタルも増えて合理的に考えて、こちらに決める方もいますが、ここではその方法の善し悪しについては個人の自由ですのでその事に関しては述べません。
 以前のレクチャーで「振り袖を誂える前に」という項目のなかで、振り袖を着る時期について少し述べてはいますが再度ここで掘り下げて言いたいのは、成人式まで、まだ間がある高校生くらいのお嬢さんをお持ちのお母様に対してのメッセージです。


振り袖16才説



 なぜ、この年代が着物はじめに良いかということについては下記に述べる理由などからです。

1.10代には、この時期ならではの着物姿の可愛さしさが存在し、その魅力を周りの大人や本人にも気づいてもらいたいということ。

2.成人式前に一度でも着物を着るチャンスを作り、本番までに着物に慣れてもらうということ。

3.10代という多感な時期に、日本女性の文化継承としての着物の良さを肌で感じて欲しいということ。

 成人式より早い10代の頃に1度だけでも着物を着る機会を設けて頂きたいのです。

 1回でも多く着物を着る事で、着物に慣れていきますので、あわただしい成人式で、ただでさえ慣れないのに草履も履き慣れず、歩き方までよちよちとして苦しそうに見え、本人も窮屈で着物が辛く着物は苦手に...という事態は避けたいです。

 よしんばそれが振り袖でなくても構いません、小紋でもお母さまの若いときの着物でも良いです。着るチャンスがあることが大事なのです。冬場やお正月にぜひ着て下さい。
 成人式前に何回か着物に袖を通したお嬢様は、本番の成人式の晴の日に着たときに全く違います。体が着物を着た事を覚えているので、少しでも着慣れた感じになるのです。
 そのような訳で、どうせ振り袖を着るなら1年でも早めに準備をされて下さい。理想を言えば体が決まった高校生時代です。そこで私は前々より振り袖16才説として提唱しております。


10代の方への着物の提案について



 今まで振袖を中心に話してきましたがその前段階としての考えもありますので、これも提案しました。着物に慣れるといっても、わざわざそのために新調するという事もないので、かつてお家の誰かが着た昔の着物、お母様やお祖母様が若い頃着ていた着物はどこかに眠っているか、忘れられている着物があるかもしれませんから、そんな着物を取り出して見たらいかがでしょうか。
 少し手を入れて、たぶん裄が短いかも知れませんので直してお家で、お正月やお雛様の頃とかに着せて見てあげて下さい。着てみればきっと可愛いらしいことでしょう。そして着物を着る喜びを味わってみて下さい。
 日本女性として着物という衣装に手を通してみる機会を作ってあげて下さい。そんな機会が成人式を迎える前に2,3回でもあれば、着物を好きになって成人式には堂々と淑女してのミスの第一正装であるお振袖にスムーズに入っていけることも出来るでしょう。


着物を伝える役目は大人にある



 二十歳前の美しさは捨てがたいもの、作り手としては、2度と戻って来ないこの年代に着物の持つ衣装としての贅沢な感触を体感してもらいたく、また絹の持つ暖かさにも触れて欲しいと強く願っています。
 この伝統的な着物という文化が長く引き継がれて行く責任は我々大人にあると思っています。アジアの国々のなかで最も東方にある日本で育まれた絹の衣装は、若い年代から肌で感じてこそ継承してゆくものと信じています。
 日本文化を伝えることは日本女性が日本女性としての自覚を認識する大事な事です。10代から着物に親しんで下されば幸いです。
 どうか周りの大人も協力して10代のお嬢さんへ着物を着せて上げる機会を設けて下さる事を切に願っています。

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