ずらしの美学


 着物は日本女性にとって究極のコーディネートを楽しむことの出来る衣装です。私たち日本人は、昔から着物の組み合わせに想いを巡らせて独自に築き上げて参りました。今は先人の知恵の蓄積の上に着物の装い方は成り立っております。
 それに習って現代に生きる私たちは着物を着る時に、ごく自然に組み合わせを考えています。時代と共に現代の装い方にどんなアレンジが加わろうとも、昔から受け継がれてきた装い方の基本部分はしっかりと抑えておきたいところです。


日本の四季と着物


 日本の四季の変化は、世界のどの地域と比べてもはっきりしているそうです。夏は暑く冬は寒い、普段私達が当たり前と感じてる気候も実は世界から見ると少し特殊な環境のようです。
 もちろん諸外国にも気候の変化はありますが、雨季と乾季のような季節はあっても四季が明瞭ではなく、四季の移ろいを楽しめるのは世界中でも限られた地域のようです。

 もう少し地理学的に言うならば、日本は中緯度に存在する島国で東西両側を海に挟まれ国土が南北に長いため、亜寒帯から熱帯まで地域により気候が大きく異なります。
 暖流である黒潮や、大陸辺縁部であるため季節により入れ替わる複数の気団の影響によって、南方諸島の一部を除く国土のほとんどの地域において季節の変化が大きいと言えます。

 そして、数ある日本独自の文化の中で着物も例外なく、コーディネートの最も大きな要素として占めているのが、日本の風土が持つ四季の移ろいなのです。

 はっきり四季がある日本だからこそ育まれたお洒落の感覚は、日本人らしい繊細な美意識を育て誰もが共有して感じる事の出来る感覚にまで発展していきました。和の文化の根底にあるのは風土が培った四季なのです。

 この着物という衣装をまとう中で、四季のコーディネートを自分の為にだけ考える幸せの特権として大いに楽しもうではありませんか。
 日本人なら誰にでもDNAに染みついている四季に対する繊細で敏感な感覚があります。そのセンスを呼び起こし着物を着る時には役立ててみる事にしましょう。


お洒落の提案と演出


 さてお洒落を、人が見て素敵と思い感じるのはどういう時でしょうか。先に述べたように,着物の世界では上手く季節を自分の身に取り組むことです。四季折々の素材と柄を中心に考えて、この事に精通していけば、自然とお洒落も上級者になれるでしょう。

 季節に合わせて季節の着物を身にまとうというのは、まず当たり前なお洒落として誰もがしていることです。そこで、もう一歩踏み込んで、季節をほんの少しだけ先にずらしてみるのはどうかというのが今回の提案です。お洒落は季節をやや先駆けないといけません。

 たとえば桜の満開の時に桜の着物を着て楽しむというのは全く当たり前なことで、勿論それでも良いのですが、桜の開花を待たれる時こそ桜の着物を着たり、蕾がほころび始めた頃に着始めたらもっと素敵なことでしょう。
 ジャストシーズンに合わせるより、少し先駆けるほうがよりお洒落な雰囲気を周りに感じさせるのです。
 その装いを見る人、着る本人にもこれから訪れる季節のイメージを膨らませることが素敵に想わせることでもあり,お洒落の真髄でもあります。 

 それは実際には素材や柄であったりする事なのですが、しつこいくらいにそれを取り入れる、つまり桜の着物に桜の帯などとやり過ぎない事に注意が必要です。さりげなくするのが垢抜けて粋に見えるでしょう。そしてどこか一点だけ凝ってみるのも良いです。

 無地の着物に桜の柄の帯とか、桜の柄の着物に春霞を想わせる帯を締めるなど,または、桜の細工の帯留めをしているとか、そういうさりげなさです。
 そして帯は着物より半歩季節を進めて見ると、尚、素敵です。少しづつのずらしが効いて来ます。素材感も、柄行きもです。私はこのテクニックをずらしの美学」と呼んでおります。


帯は半歩早めに


 帯が着物より遅れた感じになるとこれはおかしいです。着物と同じ季節感覚で行くか気持ち先に進むかがお洒落のこつだと考えます。
 帯揚げ帯締めの素材も帯に必ず準じます。帯の季節感で、はたと迷われる方が多いようですが,その時にはこの考えを参考にして下さい。
 特に単衣の季節、着物は6月と9月と同じでも締める帯と小物は違ってきます。バッグや草履も季節感をただよわせる小道具ですから、気を遣われる事も大事です。
 小物類に神経が行き届いている装いの方はまず着物も帯の選択も合格でお洒落度満点です。


お洒落を総括してみます。


1,季節を敏感に感じる気持ち。
2,季節感は体感で感じる事も大事だが暦や行事もしっかりと、照らし合わせましょう。
3,季節の装いは余り決め過ぎずにさりげなくする。
4,帯でも着物でもわずかに季節感を先取りして、コーディネートに「ずらしの美学」を取り入れよう。
5,過ぎさった季節を感じさせる装いをして、絶対に前の季節感を引きずらないこと。
6,最後に時、場所、着用目的を踏まえた上で自分らしさを演出しよう。

 以上着物を装うときの、より垢抜けて見える装い方を述べましたが、着物を衣装として捉えれば色々楽しめるはず、時に応じて様々な装いを自分の為に演出してみましょう。ご自分のためにする究極のコーディネートでセンスを磨き着物ライフを楽しみましょう。きっとワクワクした気持ちになれることでしょう。

 ほんの少しのお洒落心と遊び心と季節に添う美意識があれば、貴女も立派な着物上級者です。色々とお試し下さい。

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