思い出を膨らまそう


 今回は特に着物の種類、着方、知識についての具体的なお話ではありません。もっと着物を着た時の効用、心のお話しになりますが、今まで様々な方々から聞いた体験談や私の考えを述べてみたいと思います。



思い出が鮮明に


 私が着物で出掛ける場所ですが、結婚式やパーテイは勿論のこと、芝居、コンサート、オペラ、展覧会、各種の集まり等、様々な機会があります。
 不思議な事にその時にどんな着物を着て行ったかということは何年経っても思い出せるのです。そして誰と会ってどんな会話をしたのかと言うことまで、それに連れて甦って来ます。

着物の思い出 人は過去のことを思い出そうとする時に、あの時自分はどんな装いでいたのかということを画像のように脳裏に浮かばせるようです。
 あの時は、あの着物にあの帯を締めたのだったと思い出すと、記憶は連鎖して芝居の演目やら一緒に行った友人のことなど、帰りにはあそこでお茶を飲んだことまで記憶の縁から次々に過去の情景が立ち上がるようです。

 いつも思うのですが、たまたま洋服で急いで出掛けた日は後になってから、記憶に残らない事が多いのです。つまり記憶が薄いというか弱いのです。
 服で出掛けるときは、そそくさとして忙しく帰宅するせいか出掛けた先の印象もやがて薄れてしまいがちです。
 ですから、この頃は着物でなるべく出るようにして、自分の行動をより思い出深くするようにしています。

 それでは、なぜ着物を着ると思い出が強く記憶に残るのでしょうか。まず着物を着る動作から始まり、体にまとった時の絹の心地よさ、非日常的な事であり、心が暖かくなり満足感が得られるからではないでしょうか。
  思い出が膨らんでいつまでも記憶に残る不思議さをもたらす着物は暮らしを豊かに彩ってくれます。
 そして着物を着て行く事自体が元気でいられてお洒落心を持ち続けていられる大事な事なのだと気づくのです。
 着物は私達の民族衣装だから、なるべく着るようにと大上段に構えて言っているのではありません。ここでは着物を着て出掛けた時の効用を述べています。

 少々抽象的な話しでしたが、街ですれ違う着物姿の人を見ると、今日の外出のために、それぞれに自分のためにコーディネートをして出掛けてきたのだと、うれしく眺めさせて頂いております。着物を着て出掛けたことは帰りには思い出もいっぱい身につけて帰宅なさると思っております。



着物で出掛けた日のこと


 それではここで、着物を着て出掛けられた方々がおっしゃっていた言葉を紹介します。

Aさんの話

見知らぬ方が「着物っていいですね」と声をかけてくださいました。

Bさんの話

年配のご婦人が「私も昔は着物ばかり着ていたのですよ」と懐かしそうにしていらした。

Cさんの話

駅のホームで「素敵なコートですね」と誉められた。

Dさんの話

電車の中で年配の男性が隣り合わせに座り「お若いのに着物とはいいですね」とにこやかに語りかけられた。

Eさんの話

お食事の席で「取って差し上げましょう」と気を使われたこと。

Fさんの話

夏の日に「お偉いですね、こんなに暑い日なのに」と言われたこと。

 などなど、数え上げればきりがありませんが、皆さんは着物を来て出掛けた日は服での外出と違った体験があるようです。
 全く知らない方からお声を掛けられたり、感想を述べられたり、思わず呟やかれたりした経験を持たれます。着物を着ているという姿を見るだけで日本人としての血が騒ぐといったら大げさでしょうが、不思議な体験です。
 着物を着た事がある皆さんも、一度はこんな経験が少なからずあったのではないかと思います。着物を着る人が少なくなったので目立つということもありますが、そればかりではないでしょう。やはり着物は私達の民族衣装なのです。着物っていいなあと誰でもが思って下さるのを願っています。着物を着た時、あなたにとってはどんな効用がありましたか?

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