忘れられた反物


 貴女のタンスの中に白生地の反物が眠っていませんか?以前に頂いた反物を、いつか染めようと思ったまま何となく月日が経ち、忘れたままになっているのでは、、、。今回はそんな反物のことを話してみましょう。



白生地の黄変


 私のところにも「今昔の会」(昔の着物を今に生かす相談会のこと)の時に、こんな反物があったのですが何になるでしょうか?と、白生地をお持ちになる方があります。殆どは、いつから家にあるのか、何年くらい経っているのか分からない、という場合が多いです。
 広げてみますと、反物の所々が星のようにカビが生えて、黒ずんでいたり、折り畳んだままの色が汚れていて、巻き直せば、段々に黄変していたりと私のほうががっかりしてしまいます。
 白生地には中には多少なりとも糊気のあるのもありますからカビがひどくなってしまうのです。

黄変した反物
(左:黄変した反物、右;新しい反物) 


 まず普通の方は反物を虫干しすることはないでしょう。風を通さないままタンスにしまわれて何年も経ってしまうものです。
 なにかの機会にお持ち下さるのですが、希望の柄には染められなくなってしまいます。特に星状にカビが生えているのは、落とせないので一番困ります。

 頂き物の反物は目方もあり、上質の生地なのに本当にもったいないことです。日頃、着物を着ることが少なくなり、白生地が目に触れることなく、好みの柄や色に反物を染めてもらう、という習慣が失われたためでしょうか。

 昔の女性は白生地を持つことも楽しみの一つでした。絹の織物や反物はずっとずっと昔は宝物と一緒でした。昔話の中に桃太郎が鬼ヶ島から凱旋する時に引いている車の中には必ず金銀財宝の他に絹織物や反物も描かれていたのを私は覚えています。それほど大事で貴重なものでした。貢ぎ物にも使われたりしたのです。
 近代ではよくお仲人さんのお礼にも使われるので、桐箱に入ったままの反物をそのままお持ちの方もいらっしゃいます。大事にしすぎてとっておいたというより、日常生活の中で忘れられていたという方が本当でしょう。



反物の手入れは早めにする


 さて、こんな反物に気づかれたらどうしましょう。私達、創る側からすれば早く空気にさらして、まず一度水に入れて洗いたいものです。カビは見えるものばかりではありません。そしてなるべく早く染めに入るのがよいでしょう。放っておけばどんどん黄変して赤みを帯び湿気も含んで縮んだりカビたりしてしまうのです。
 着物を新調するとき、手持ちに白生地があったかどうか必ず思い出して、あればそれから使用して下さい。
 反物の長さには三丈物(普通の着物一枚分)、四丈物(着物と八掛が共で作れる用尺分)、二丈五尺物(コートや羽織の用尺分)などが主です。中には胴裏や八掛の裏生地もあります。作りたい着物の種類と、手持ちの白生地の材質があっているかは、専門の方に聞けばすぐに分かります。

 絹の反物は女性の財産と同じです。タンスの隅に反物が忘れられていませんか?是非思い出してあげて下さい。

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