帯3本の術(前編)
昔からよく言われていることに「一枚の着物に帯3本」という言葉があります。これはどういう意味だと理解されるでしょうか。
この言葉をテーマに、色々な着物を着た場合を考え、前編、後編の2回に分けて話していきたいと思います。
着物の数が多い
皆さんのほとんどは、手持ちの帯の数より着物の枚数の方が勝っていませんか?ついつい着物ばかりが目についてしまい、結果においては着物の方が増えてしまってはいませんか?
着物を購入されてから「帯は手持ちので合うかしら」と考える方も多いようです。
ですから、いざ着るときになって、あれこれと色々な着物を出してみても、帯がしっくりと来ない場合があります。
どんなに素敵な着物が多くあっても、帯との調和がぴったりとしなければおかしな事になってしまいますし、素敵な着物姿も生まれません。それほど帯は重要な役割を持ち、着物は帯次第といわれる由縁です。
帯は洋服でいうところのベルトではありません。着物と同じぐらい主張し、時には着物以上に目立つのです。
帯をやたらに求めなさいと言うことではありません。衣裳計画のなかでは、着物ばかりを増やすのではなく、着物を着た時の帯について、もう少しイメージしてみるという事が大事なのです。
そして、この作業こそが着物を着る最大の楽しみでもあるのですから。
まず、着物より帯の数のほうがずっと多いほうが、着るのに楽だし広がりが持てると言うことを頭に置いて頂きたいのです。
紬類に合わせる帯
それでは、少し具体的な帯の揃え方について考えてみましょう。紬などが好きでよく着られる方は、まずどんな帯に目が行くでしょう。紬の着物自体はカジュアルなものです。
普段のお洒落着として着るのですから、仰々しい感じとかキラキラした糸使いのものは避けるのが無難です。重い袋帯を締める事もありません。従って、ほとんどが名古屋帯を選ぶことになります。
まず、紬の着物の地色を見てみると濃い色で、紺系統、または茶系統、濃い緑や、黒に近い色などで織られている物が多いと思われます。もちろん白っぽい紬もありますが、、、。
織られている模様は、写実的ではなく絣や幾何学模様に図案化されているものが多く、四季をもろに感じさせる図柄が少ないのが特徴です。つまりいつでも着られる、さりげなく着られるというのが紬類の持ち味です。
もともと紬は土の匂いがするもの、各地の風土に育まれたものですから、それぞれ味わいがあるのです。
これらの着物を、お洒落に、また垢抜けさせて着こなそうと言うところに工夫が生まれてくるのです。さて、どんな基準で帯を選ぶことにしましょうか。
帯は3本を目指そう
1枚の紬を持っているとします。この着物をこれから着こなしたいと考えていきます。まず、手持ちの帯を思い出してみましょう。
1. 季節感のない柄
(例えば縞柄)
第一に全く季節感のない柄の帯、「いつ締めても大丈夫、だってこの着物に合わせて勧められたのだから」というのがあれば、それはそれで役に立つので正解です。
でも、いつもこのひと揃いがセットのようで何だかつまらないなんて思われてませんか。そうです、お洒落心って何なのでしょう。
着る日、場所、機会を捉えて、気持ちを高めたりして自分の暮らしを豊かに楽しむ事ではありませんか。
お決まりのユニフォームのようなひと揃いではなかなか満足しないものです。
それでは、ここでお洒落な装いを進めていきましょう。特に季節感のない帯を1本持っていれば、次に春らしい感じの帯と秋らしい感じの帯、どちらかを考えて、機会があれば順次揃えてみてください。3本の帯が揃えば、大変な衣裳持ちにみえることでしょう。
2. 季節感のある柄・春
(例えば桜)
3. 季節感のある柄・秋
(例えば菊)
多くの方は季節感のある柄を避けようといたします。そしていつでも締められる当たり障りのない柄行や色のものを何本も揃えている傾向があります。
しかし、そればかりだと、その人の個性とか、らしさが埋没してしまうのです。
思い切って、季節感を積極的に楽しむところから始めてみましょうというのが、私からの提案です。
日本ほど四季がはっきりとしている国はないのだそうです。大いにその良さを帯に取り入れてみて下さい。
いくら紬がおおよそ行きにならないといっても、現代では、やはりお洒落着として着るのですから、垢抜けて装いたいと思います。
いくつも無難な帯を増やすより、今述べたような3本の帯からそろえてみて欲しいのです。
ここでは袷の着物を中心にして考えていますので、春と秋があれば十分ということになり、まずはここからスタートしてください。お洒落の奥行きを感じさせることでしょう。
次回は、柔らかものの着物(訪問着、無地、紋付き、小紋)を着るときの帯について話を進めて参ります。帯3本の術(後編)としてお話しすることにしましょう。