男は着物でサムライ
サムライブームでしょうか。このごろサムライという言葉が多く使われています。
WBCで日本の野球選手たちがサムライジャパンと呼ばれて日本男児ここにありという勝利で日本中が沸き返ったのは国民に元気を与えてくれた嬉しいできごとでした。彼等は野球のユニフォームでしたが、だれもが着物を着たら似合うだろうという凛々しい面々でした。
最近は若い男性でも着物に興味を持たれる方が増えて来たのは誠に嬉しいことで劇場などで着物姿の男性を見ると思わず振り返りたくなります。
女性でもやっと着物に遅まきながら目覚めて興味を持つ方々が増えてきたのですから、同じように男性が着物を着てみたいと思うのは不思議なことではありません。
日本人男性の体型をカバーする着物
時代劇などを見ると侍も町人も殿様も皆全員が着物姿は当たり前なのですが、全く日本人男性の体系には違和感なく着物が合っているのです。
袴や裃、着流しなど殿様から浪人まで様々な着物姿で登場してきますが、よく見ればその装いひとつで一目瞭然としてまことに分かりやすいのです。身分に合わせたTPOがなされていて非常に理解しやすいのです。
男性が洋服を着始めたのは明治時代ですが、当時は西洋人のように背も高くなく見栄えもそれほど良いとは言えず、今日まで洋服姿を定着させてきた日本人ですが、ここらでかつての着物姿を思い出し、今一度着物に親しんでもらえる機会があればと思います。
最も立派に見える男性の着物姿は紋付羽織袴です。これは式服なのでいつも着られるというものではありませんが、黒地に大きめな紋が染め抜かれている紋服はどんな体系の男性にも似合い、また時折見る国際社会のレセプションのなかでもひときわ目立っています。
芝居などで見る裃姿の装いは本当に日本人の体系をカバーして立派に見せているといつも感心するのです。現代では裃姿をすることはありませんが、時代物の衣装を見るたびに良く出来ていると思います。おまけに長袴などを見れば余計に立派でまた感心します。威厳をも演出できる衣装として男物の着物は日本男児をより立派にみせます。現代にあってこの格調ある衣装を捨ててしまったのはいくら西欧化したとはいえ残念なことです。
しかし時代が逆行するわけではありません。かつての男性のための着物の良さをすこしでも今の時代に蘇らせてと願ってこの時代に即した方法を一緒に考えてみようと思います。
良き協力者を得る
着物が着てみたいという男性がちらほらと出て来て30代から40代前後の男性がなにから揃えたら良いか、どこから手をつけたら良いかという声を聞きます。中々自分では分からなくてその方の奥様から相談を受けたりします。
この年代の男性は、すでに父親が着物を家庭で着なくなっていた世代に当たりますからイメージが沸きにくくなっています。何となく憧れだけは先行していても具体的に分からないことが多いのです。残念なことにまわりの女性たちも適切なアドバイスをできる人ばかりではなくなっています。
男性が興味を持って着物が着たいといっても着た後の手入れや後始末は女性たちがするので、面倒だし着物なんて着て欲しくないと思われてしまってはどうしようもありません。まず良き協力者を得ることから始めなくてはなりません。
着物が好きな奥様で一緒に出かけるのに、ご主人にも着てもらいたいと思っている奥様を得ていればとても幸せなことです。二人揃って着物でお出掛けなんて素敵ですね。
男性が自分自身で着物をたたんだり手入れをすということはあまり聞いたことがありません。
着る前段階としてこの部分が一番ネックになっているのではないでしょうか。昔のように何くれと着替えを手伝ったりする習慣が女性の側にもはやなくなっていることも災いして男性の着物姿が普及しない原因でもあることでしょう。
スタートは、既に男性着物を楽しまれているベテランの方や信頼のおけるお店など、良き協力者を得るということでしょう。武道や茶道など日本文化に精通している先輩方は、比較的着物に袖を通す機会も多いです。そういう方とお知り合いになったり、日本文化をきっかけにして着物の世界に入られるのも良いでしょう。
何から揃えたら…
昭和初期の着物です。 最も手っ取り早いのはご家庭の中に古くても父親やお爺さまの着物がどこかに眠っていないか探してみましょう。大正や昭和前半の男性はたいてい着物は持っていたはずですから箪笥の底や長持ちの中に眠っているかもしれません。
男物はアンサンブルといって羽織と対になっているのが多いので、あれば両方一時に見つかるかもしれません。当然身丈や裄が短いのが多いと思いますので、ひどい傷みや穴がなければ洗い張りして昔のほこりを落としてきれいに反物の形にしましょう。羽織も同じ生地であれば一緒に洗い張りしましょう。あとで役に立つかもしれません。
素材が見つかればこれが一番経済的な方法です。女性たちが男物の着物に積極的になってくれないのには男物は高い価格だと思っている節もあるのです。古くても再生出来る素材があればとてもラッキーなことです。
まわりを見渡しても何も見つからなければ新しく購入しなくてはなりません。
価格はピンからキリまでですから自分の予算に合わせていったいどのくらいかかるか見積もってもらわなくてはなりません。
どんな着物でも裏地と仕立ての費用はかかり方が同じなので、この分を引いた額が着物本体の反物に当てられるので全体の予算から決めたら良いでしょう。
大島や結城、塩沢などいくらでも高い素材はあるのですが、銘柄にこだわらなければそこそこの価格の生地、アンサンブルで着物と羽織同反で10万円ぐらいからが買いやすいかもしれません。それでも裏地類、仕立て代と加算されて行きますと結構な価格になって行きます。予算があるほど表地にかけられるという訳です。
一度作れば一生ものです。はじめは大変に思いますが長い目で見れば、女性ほど数を必要とはしないので洋服よりは次世代に譲れるので経済的です。着物の他には長襦袢、帯、下着類、足袋、雪駄、が必要です。冬であればコートも要りますが少しずつ揃えていったらよいでしょう。
だんだん欲が出てくれば袴も欲しくなります。最近ではコートも袴も既製品で仕立てたのを売っていますからその都度揃えていったらよいでしょう。
男物は基本は羽織と対の形ですから無難にここから初めて、そのうちに着物と羽織を濃淡の色や反対色でお洒落してみたくなるでしょう。そして良く言われる『男性の着物は見えないところにお洒落をする』この遊びを覚えると、もう虜となってしまいます。
何よりも着物の持つゆったり感、くつろぎ感にやがて日本男児の血が騒いで来たら、もう貴方はそれだけで気分はサムライになれます。
日本人として生まれたら一生に一度は着物ライフを経験なさることをお薦めします。非現実的と思わずににきっとライフスタイルを豊かにしてくれることでしょう。
余談ですが
明治大正、昭和と戦前までの男たちの着物姿を古い写真などでみますと、和洋折衷で実にいろいろに工夫しているのに気がつきます。ソフト帽にたっぷりとした二重回しとも鳶とも言われたコートを羽織ったり、書生さんがシャツを下に着てその上から着物を着ていたり、いま見ても魅力的な装い方があります。そしてその姿で職業が分かったり、粋と呼ばれる着こなしがあったりと様々です。袴もまたいろいろです。(※詳しくはムカシアルバムをご覧下さい)
話がそれますがブータン王国では国王を始め若者たちが自国の民族衣装をとても大事に考えて日常でも着用することに誇りを感じているというドキュメントを見たことがありました。
日に日に近代化して行く波の中で伝統を重んじて、なにもかも西欧化はしないという首相の意見に心打たれたことがありました。
かつての昭和天皇の葬儀のおりに、若き国王が堂々と民族衣装を着用して凛とした姿に感動した覚えがあります。その衣装は私たちの着物とも少し似ている所があって驚きました。ドキュメンタリーの中でいまだに自国の衣装を重んじている若者たちの姿はとても美しく見えました。
日本男児もそのアイデンティティーに誇りを持って欲しいと思うのです。サムライたちがんばれと言いたいです。もし着物を着たいなという男性がいいたら、いくらでもアドバイスして行きたいと思います。