悩める9月には
9月に着る単衣は、原則一ヶ月間だけとされているので慌ただしく感じられます。9月に着物を着る予定があると、さあ何を着るのだろうと考えてしまい分からない事もあるので、今回は悩める9月の着物について具体的に説明してみましょう。
基本的にまず9月の着物は単衣であることを年頭に置いてください。それから帯は単衣であるか、それほど重くない冬に使用する帯で構わないです。
気を付けて頂きたいのは、6月に単衣を着るときは夏の素材の帯をするのですが、同じ単衣の着物を9月に着る場合には、もう夏の帯ではなく秋冬の帯を締めてよいのが6月と9月の違うところなのです。
ついでに言えば、帯は着物より一足早く季節を取り込むのが良いのです、そして小物も6月には夏物を9月は秋冬物を使います。このように着物は6月も9月も同じ単衣でも帯と小物は違ってくると言うことに注意してください。これらの点を基本として抑えておいて、9月の装いについて考えていきましょう。
初秋の単衣の模様
初秋に着るにはどういう柄や地色が相応しいでしょう。贅沢なようですが、秋を感じさせるような柄や色の着物であればとてもお洒落です。人によっては6月の単衣と9月の単衣の着物の雰囲気を、分けて考えたいと言う方もあります。無地の着物はどちらの月でも着られる色を選ぶようです。夏を挟んで初夏と初秋の色にこだわり、別々に違う色の無地の単衣を作るお洒落な方もいます。
そして単衣にだけ使うのは勿体ないと思われる着物は、着る目的がある日を終えると滅多に9月は着ないからと袷に仕立て直す方も中にはいます。
その逆で袷を単衣に仕立て替える場合もあります。季節感のある柄の着物はお洒落ではありますがどうしても季節の柄にこだわる必要はなく単衣であれば良いのです。
もし単衣の柄にどんなのがよいかと考えれば例えば秋の七草のように桔梗、女郎花、萩、尾花、ワレモコウ、野菊、葛、などの花々、蜻蛉、そしてお月見に因んだ秋の風景などが描かれたものは深まる秋に先がけて素敵な図柄といえましょう。
錦秋の紅葉となると、もう袷の時期の柄なので単衣に付ける柄としては無理ですから、あくまでも秋の入り口の柄に留めたら良いと思います。無地の場合も少し暖かみのある暖色系が9月には合います。
ススキと女郎花の単衣の訪問着。生地は紬です。初秋の原野を描いています。
単衣に使う生地のこと
単衣の仕立てというのは、ただ裏地が何も付かなくて、衿裏だけに裏がつく着物ですから生地は何を使用しても良いのですが、少し注意するとすればしっかりした良い生地を使うのが望ましいです。
表の生地を支える裏地がないのですから、あまり目方の軽い生地では心許ないと思います。実際、単衣を着る6月と9月は天気が変わりやすく雨の降る日も多いので湿気で縮むことのない生地で作りたいものです。
縮緬系のしぼのある生地は縮みやすいので、お天気の良い日にのみ着ることにして、不安定な天気の日には着ることを避けましょう。その点、紬系統は単衣には安心です。袷にしていて少し重いかと思われる着物があれば洗い張りでもして単衣にするのも一考かと思います。
9月の日々につれて
それでは本題に入りますが、短い9月の日々に着る着物について具体的に示してみましょう。
<上旬>
「9月の上旬に8月からの気温が下がらず真夏日が続く残暑の日」
このような日には夏日と思い夏の着物と同じ装いでも許されるでしょう。気温は30度を越える日には9月に入り約1週間位、5日かせいぜい7日まで夏の着物で出掛けても良いとは思います。これ以降は単衣にして下さい。またこの間でも一日でも涼しい日があったなら再び暑くなっても、もう単衣に切り替えて下さい。まだ暑いからといって夏の素材の着物を引きずらないで下さい。
上旬に何を着たらと悩む方が一番多いので上記のことを参考にしてください。勿論、初秋に相応しい着物があれば言う事はありません。9月1日からがらっと変えても良いのです。
9月上旬の集まりでは暑さが辛く夏の着物をまだ着ている方と、颯爽と単衣で初秋の美しい柄を着る方とが混在している会場の景色を見ることがあります。現実派とお洒落派の違いでしょうか。
もし初秋の素敵な1枚を持っていたならこの時とばかりに9月を待ちかねて着ることでしょう。繰り返しますが、いくら残暑といっても空は高くなってきているのです。上旬に真夏の着物を着てもおかしくないと思う日は実際には1回ぐらいしかありません。
<中旬>
「気温が20度台になり朝夕涼しく感じたら」
もう9月も中旬になる頃です。絶対に真夏の素材は着ないことです。透ける着物はもう着ません。単衣の着物で帯も単衣かもしくは塩瀬、または、やや軽い感じの袋帯を締めます。着物の格に合わせてください。
<下旬>
「秋の気配が段々と濃くなるころ、虫の鳴き声が聞こえます」
もうすぐ袷の季節です。単衣もやや地の厚い物を着ても良いでしょう。帯や着物の色も濃いめでも、もう暑苦しくは見えません。凌ぎやすく絹の暖かみも肌に心地よい頃になってきました。夏の着物の手入れもこの頃には済ませてしまいましょう。そして10月からの袷の準備に入りましょう。
尚、10月1日から袷と言うことですがこれも9月の上旬の考え方と同様で秋晴れの暑い日であれば中旬位までは単衣を着ていても良いと思います。つまり服で言えば半袖でいたくなるような日です。この頃までは晴天の日が比較的多いのです。初秋の単衣の一式を用意してあれば安心なのでぜひ心掛けるようにしてみてください。
どうも単衣は勿体ないとなかなか思い切って着ず、袷にばかり仕立てる方が多いのですが、単衣を着る期間は昔より多くなっていますので、あれば重宝です。涼しくなればとたんに着物は着るのが楽になります。初秋から着物を楽しみましょう。