暑がりさんに胴抜き仕立て
着物はほとんどが決まった形をしています。直線縫いでカーブしているところは袖の丸みぐらいでしょうか。そして表地に裏が付くか付かないかで袷と単衣に分類されます。それぞれ表の生地の種類はあっても仕立て方としてはこの二通りに大別されます。
その中にあって「胴抜き仕立て」をご存知で実際にこの仕立て方の着物をお持ちの方は少ないと思います。
それではどうして胴抜き仕立てにするのか、またどういう仕立て方を胴抜きと言うのかをお話ししたいと思います。着物が好きならこんな仕立てもあることを知っておいても良いかも知れません。
胴抜き仕立てとは
胴抜きとは読んで字のごとくに胴になるところに胴裏地を付けないことです。袷の着物には胴裏地が着物の上部に裾回しの生地が下部に当たる腰から下の方に裏地として付いているのが普通です。
胴抜きとは胴の周りに当たるところに裏地を付けない仕立て方です。裏が付いているところは袖の裏と裾回しと襟だけです。
それでは袷か単衣かどちらかと分類すれば袷の方に入ると思われます。外から見て着ている状態は袷のように見えます。
それでは何故、胴抜き仕立て方にする必要があるか述べましょう。
胴抜き仕立て(裏から見たところ)
胴抜きにする理由
理由は何通りかあると思います。
1,まず本体の着物の表地が厚かったり固めの素材だったりしたときに嵩張って着にくいと思われたときです。胴裏を付けると厚ぼったくなってしまうのを避けたいと思うからです。
2,体格が良かったり胸が大きい方は少しでも胴に当たるところがもたもたしないようにと考える為です。
3,暑がりで胸元をすっきりさせたいと思うときです。
4,季節の変わり目に、袷から単衣に変わるそのわずかな期間に胴の部分だけ単衣と同じ状態に、また単衣から袷に替わる頃でも同じ事が言えます。季節の狭間に重宝な着物として利用出来ます。
以上が理由として挙げられますが条件としてはごく柔らかめの着物の素材ではあまり胴抜き仕立てはしませんで、どちらかと言えば紬の固めの生地の場合にこの仕立て方をします。
袷として仕立てたものの何だか着にくいと感じたりするときには、胴抜き仕立てを一度経験してみるとよいでしょう。
胴抜き仕立てに相応しい着物であれば一度洗い張りの機会にでも仕立てて見て下さい。ただし、細い体型で寒がりの方は特に胴抜き仕立ての必要はないと思われます。
ちなみに私の着物で胴抜き仕立てをしましたのはお召しや地厚な紬類です。私は五月や十月に袷を着なくてはならない時季に胴抜きの着物を重宝にしています。
特殊な仕立方ですが、このような仕立てもあることを覚えておけば、いつかそのような仕立てをするのに相応しい着物が出て来るかも知れませんね。
番外編、居敷当てについて
わざわざ取り上げるほどもないのですが「居敷当て」についてです。仕立る時に単衣の場合ですが居敷当てを付けて下さいと頼まれることがあります。これは背中心に裾から腰紐を掛ける当たりの高さに右と左の背にかけて一枚胴裏を張るのです。短く腰の部分だけ付ける方もいます。単衣に限ってだけ付けるのです。
どういう方に頼まれるかと言いますと、座る姿勢が長くて背縫いがへたったりするのを避ける為に頼まれます。体の重みがかかる腰のあたりは縫い目が割れたり生地が傷んだりするからです。長時間座られる茶道の先生などに多いです。
それから普段着の着物だけで、よそゆきの着物には滅多に付けません。単衣ゆえに居敷当てが表の着物にひびいてしまってはおかしいからです。
今回のお話の中に居敷当てと呼ばれる着物用語も付け加えておきますので覚えておいて下さい。