帯3本の術(後編)


 前回の話の続きをいたします。今回は、やわらかい着物(綸子、縮緬、緞子使用の物)を着た時の帯選びについて着物の種類別に話を進めて行きましょう。



訪問着や付下げを着る時の場合


 第一に重めの格調ある袋帯が必要です。第二に、やや趣味的なお洒落の要素が入った袋帯(よくいうところの洒落袋)。
 そして第三には、格調高い雰囲気がある名古屋帯などを持っていると便利です。
 この場合の名古屋帯は砕けすぎない柄である事と、仕立て方が開き名古屋仕立てになっていれば尚、望ましいです。

※開き名古屋仕立て(鏡仕立て、額縁仕立てとも言う)

表地
訪問着や付下げにあわせる帯

裏地
開き名古屋仕立て

裏地
名古屋帯 裏地



 そうすれば前を広く折れるので袋帯のようで立派にみえますから。ただし、あくまでも付下げ止まりです。
 もちろん結婚式のお呼ばれには、訪問着でも、付下げでも、色無地の紋付きの場合でも帯は必ず袋帯にします。
 それ以外の集まりには、第二、第三で述べた物で良いと思います。三種類の帯だけ、三本の帯だけを揃えれば終わりという訳ではないのです。この三本の柱を基準に置き、機会に合わせて手持ちの帯から選んでください。
 また新たに求める時にもこの事を考えて増やして行けば無駄がないはずです。余裕があれば季節感のある袋帯も持てれば、より一層豊かな気持ちが持てますでしょう。



式服(黒留め袖、色留め袖、喪服)の場合


 念のために式服類についても述べて置きましょう。一般的に、留め袖や色留め袖を着る時には、格と品のある袋帯と決まっています。
 昔から帯は着物と同格かそれ以上と言われてきました。帯が着物より落ちてしまえば着物も台無しです。
 「帯3本の術」からは話がそれますが、袋帯を求める時は3本の質の良くない帯をそろえるよりも、1本の上質な袋帯を手に入れた方が、長い目で見たらずっと良いと私は思います。
 袋帯は女の宝と言われている由縁がここにあるのです。良い帯ほど着物をひきたてます。
 たまに昔の丸帯を眺めると、上質の帯は財産として、また嫁入り道具として昔は持たされたのもわかる気がします。

 それから喪服の時の帯ですが現代では、ほとんどが名古屋帯です。少し前には便利さを考えて1本の帯がリバーシブルで夏冬兼用などというのも流行りましたが、あまり感心はできません。
 質も良くないものが多く、いかにも倹約がありありとしていますし、締めやすいものがありません。
 袋帯ほど高い価格ではないので、やはり夏物、冬物と持たれた方が結局は長持ちすることでしょう。



色紋付きや色無地の場合


 色紋付きで紋が1つ、または3つ紋の着物の場合にはまず袋帯を締めるのが無難でしょう。
 大抵の場合はおめでたいときに着用するのですから、立派な帯を締めるのに越したことはないです。
 それでも着る場所によっては、先の訪問着と付下げで述べたように、着物にふさわしければ格のある立派な名古屋帯でも良いと思います。
 たとえば入学式、お茶会、小さなお祝い事などでしょうか。ここでもご披露宴の席では紋付きは袋帯にして下さい。

 それでは紋の全くない、ただの色無地の時にはどうでしょう。もう少し気楽に考えても良いでしょう。
 色無地自体はあまり面白みがありませんから「帯3本の術 前編」の紬の所で説明したのと同じような考え方で、着物はベースとして捉えてみます。
 季節の柄の帯にして楽しめば無地のキモノにもキャラクターが浮かび上がる事となるでしょう。帯次第で個性が出る着物姿になります。
 ただし、色無地の時には無地の帯をすると全くつまらないし働き着のようですから、お洒落に着るためには、この組み合わせは避けた方が良いです。



小紋を着る場合


 小紋と言っても色々です。型小紋、手描き小紋、江戸小紋、などが代表的ですが、これらの着物こそ袋帯でも名古屋帯でも着ていく場所にあわせて自分らしい雰囲気を作れます。
 多くの組み合わせが考えられて着物好きな方にとっては腕の見せ所ではないでしょうか。
 江戸小紋は準礼装にもなるので、柄物や飛び柄の遊びの小紋とも少し違い、帯次第でバリエーションが広いです。無地に近い感覚もあるのでお茶会などでは季節の帯を含めた3本の術を活かせるでしょう。

 案外と帯合わせが難しいのが、凝った柄の更紗や唐草模様です。この場合、優しげな柄の帯ではピンと来ませんし、無地風な帯も合いそうで合いません。古典的な柄も今ひとつな感じなのです。
 私の経験ではこんな時、縞柄の帯か抽象的なモダンな帯が個性の強い着物にしっかりと納まることがあります。ややしつこい柄の小紋の帯合わせに困ったら思い出してみてください。



まとめてみれば


 「帯3本の術」と称して着物に合わせる帯のあれこれを、少々横道にそれながらも2回に分けて述べて来ました。
 3本というのはあくまでも1枚の着物に対しての基本の考えになる柱ですから、この柱を自在に伸ばして膨らませて下さい。
 お分かりかと思いますが、必ず1枚の着物に3本ずつの帯が必要と言っているのでもなく、少なくても3通りの楽しみ方があると言うことなので、着物も帯も互いにクロスしあいながら変化できることを伝えたかったのです。
 ただなんとなく、行き当たりばったりで帯を揃えるのではなく、どんな時にどんな帯を必要としているのかをイメージして選べば楽しくて賢いキモノライフとなるでしょう。

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