振袖を誂える前に


 成人式が1月の第2日曜日と定まって以来、毎年、日にちが変動するので着物業界が何だか腰くだけのような感じになってしまったことは否めないことです。
 15日と決まっていた頃には、その日を目がけて暮れより着々と準備に入って盛り上がりました。お正月も過ぎて一段落したところで成人式を迎えることになり、お正月と成人式とお目出度いことの多い1月でした。
 今では、お正月休みが明けたのか明けないのか、けじめのないまま成人式の日になってしまうのでなんともやりにくい成人式です。これだけは国の決めた祝祭日としては余計なお世話だった気がします。いくら愚痴っても、もう元には戻らないのであきらめて従うしかありません。

 さて、成人式のきものはレンタルでと言う方が多くなります昨今ですが、中には誂えたり買い揃える方々もいらっしゃいます。
 今、高校生や中学生のお嬢様をお持ちで将来は振袖を作って上げたいというお考えのお母様に向けての話を中心にして今回は述べております。
 作る時期、 求め方、考え方など私の思うことを全てお伝えしたいと、いろいろと私の考えを述べますのでご参考にして下さい。



振袖を着る時期について


 振袖は二十歳の成人式を迎えた時に始めて着る着物だと思っている本人とお母さんがいるのではないかということを私は懸念致します。
 それほど10代の後半で着物を着せて上げる機会がなくて、いきなり二十歳から着物デビューと思われるケースがほとんどだからです。

 この事についてかねてから私は「二十歳からでは遅すぎる」と声を大にして言いたいのです。それにはいろいろと理由があります。まず女性は大体16歳位で身長は決まってしまいます。その後伸びても数センチでしょう。身長が止まれば着物の寸法も決められる時期となります。
 その頃、高校2年か3年生ぐらいでしょうか。身体はもう立派な大人の女性です。そしてハイティーンと呼ばれる10代の後半は、まだあどけなさもあり、二十歳を過ぎた女性とも違った初々しさに溢れています。
 お化粧もまだ薄く肌もピチピチとして健康美もあります。青竹のように若さのあるこのころに着物を着せてあげるのはどうでしょうか。

 最近では10代の後半に着物を着る事が度々あったと言う方はほとんどおりません。七五三以来始めて着物を着たという方が成人式には多いのが現状です。
 確かに昔ほど着る機会がありません。だれもが受験受験と騒ぎ、家中がそうですから着物のことなんて考える暇も気持もありません。お母さんも着物を着せて上げようと思いつかないし、まして本人も思いつきません。本当にもったいないことです。
 ぜひこの時期に1回でも2回でも着物を着るチャンスを作って下さい。お正月でも、ご親戚の結婚式にでも何とか着る機会を捉えて欲しいのです。

 お母さんは娘さんが高校生になられたら、そろそろ着物を着る準備に取りかかって下さい。二十歳を目指してお家にある振袖を見直すのも良し、親戚の方の昔の振袖を借りても良し、新しい振袖と帯を新たに誂えるのも良し、着々と揃えて整えていって下さい。少なくとも私の世代の母達はそのように心がけていました。
 いきなり新しい着物でなくてもお下がりの着物でも着せて上げて下さい。そして成人式に向かい着物に着られてしまう事がないように気持も身体も着物に馴染ませて上げることが大事です。

 それから二十歳前に何回か着物を着せて上げると、成人式の日には始めて着る方とは全く違います。同じ振袖を18歳、19歳そして20歳と着た場合それぞれ違います。10代には娘として残しておきたい美しさが存在しています。10代後半の初々しい美しさを存分に着物姿に留めてもらいたいと切に思うのです。「二十歳からでは遅すぎる」と、私は16歳からの振袖説を説いています。



振袖の誂え方について


 最近では大手の呉服店がお客様に振袖を買って頂くのにセットで何十点込みのいわゆるセット販売をするケースが多い様です。売る方も買われる方も楽なので予め揃えられたセットの中から選んで求める様です。
 これは売り手も買い手も着物に詳しくない人が多くなったために双方に便利なように考えられた仕組でもあります。お母さん方も忙しく働いている昨今ですから昔とは時代が違いますし核家族も多くお祖母様もいないからこんな揃え方も致し方がないことなのでしょう。

 ですが、子どもはある日突然に二十歳の成人式を迎えるのではありません。20年間も余裕はあったのですからバタバタと慌てて着物を揃えるなんて事はないようにして頂きたいのです。バタバタと慌てて揃えられた着物、、、その後、決して大事にされていません。
  あまりにも形式的に買われた着物には対して愛着も湧かない例を私はよく見ます。着物を着るには足袋に始まり下着から小物類、そして長襦袢、着物、帯と揃えなくてはなりません。2、3年かけて少しずつ揃えていったらどうでしょうか。
 その間にはいろいろと知恵がついて来ます。お正月にでも着物の袖に手を通す機会も含めながら徐々に小さな物から揃えていって下さい。わからなかったら親娘で相談して話題にするのもよいでしょう。おのずから着物に対して感心も深まりましょう。好みも固まりお店のいわれるがままに、買ってしまうと言うこともないでしょう。
 価格や素材についても関心を持って見ておけば良いでしょう。分からないことは着物に詳しい方に聞いておいたりして、適性な品を適性な価格で見る目を養っておきましょう。母娘で楽しみながら、くれぐれも形式的に慌てて揃えないようにして下さい。



具体的に揃えて見よう


 まったく何もないとして何から揃えるかを具体的に記します。

 足袋:靴を買う時と同じサイズで予備を含めて最低でも2足は持ちましょう。

 下着:昔ながらの肌襦袢とお腰が要ります。
    ワンピース型に一体になっているのもあります。

 小物:紐類5本、伊達締め類2本、帯枕は2種類あります。
    おたいこ用と変わり結び用。
    補正用の腰パット、ウエスト用のもの。(タオルで作れます)
    帯板、帯揚げと帯締め、草履とバック、ショール等。

 長襦袢:着物に合わせて用意します。

 着物:寸法は着る方に正しく合わせておきましょう。
    正しい寸法はきれいに見えます。

 帯:着物に準じた帯を揃えましょう。


 おおまかにいえばこんなところですが、あとはお家にあるもので使えるものがあるかも見ておきましょう。小物も帯も着物もお母さんの若い時のものが埋もれていませんか。使えるものもあるかも知れませんので取り出しておきましょう。
 もし古い長襦袢や着物を利用するのならお嬢さんの寸法に合っているか確認して仕立て直すなら早くに手配致しましょう。このようなことをすれば直ぐに1年ぐらい経つものですから着々とご用意する事です。
 お嬢様の振袖姿はお母様の心掛けしだいというところでしょうか。次の世代に着物を繋げていく役割を担っているのはお母様自身です。頑張って欲しいのです。



購入時にちょっと留意すること


1. 着物の裏地、長襦袢の素材が何であるかを確認して納得してから決めてください。

2. 帯は着物に添え物のように考えずに着物、帯、とそれぞれ離して見たときでも、見応えのある品質であるかどうかを確かめてください。色の雰囲気とか値段に惑わされないでください。

3. 草履とバッグがセットになっている場合があります。草履は果たして本人の足に合っていて一日履いても痛くなりそうにないか、本人に必ず履かせてみてください。七五三の草履とバッグのセットとは違うのです。草履が辛いばかりにその後、着物を着ること自体がいやになるかたもいますのでこの点は重要です。草履が合わないようでしたら別途に求めて下さい。


 上記のことは振袖を呉服店、もしくは問屋さんの会場などで求める場合の時に気を付けて欲しい点です。
 この他に全くの白生地から本人のためにだけデザインしたり染めたりする場合には誂え方はもっと繊細になります。その時にはお家の家紋も入れてどこにもない一品が作れます。お色直しにも利用出来ます。未来永劫残せる一家の振袖が出来ることでしょう。

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