雨の日の心得


 着物を着るときは誰だって空模様が気になります。特に雨降りだとくじけてしまう気持ちはよく分かります。私にも着物で出掛けるつもりが、急に洋服になってしまったという経験が度々あるのです。

 少々の霧雨や小雨ならえいっと着物で出掛けて、帰りは降っていなかったと言うこともありますし、反対に帰りに降られてしまったと言うこともあります。
 天気予報だけを信じて、出掛ける前夜から着物を着ることをあきらめてしまうとよく聞きますが、私も出掛ける寸前まで空を見上げて迷います。
 最近では若い時ほど気弱でなく、着物で出掛ける意味合いの方を重視して、もう2度とこの日はないのだから今日が大事だと思うようにしています。年齢のせいかもしれません。

 着物を着る当日に雨模様で困った方の参考になればと、雨対策をここで整理して述べてゆきます。

 まず、雨だからとあきらめるのは雨降りのための対策が出来ていないからなのです。365日、晴天ばかりではありません。着物を着ると決めた日に雨・・・がっかりしていないで、なぜ着れないのか考えてみましょう。雨の日に着物を楽しく着るには何が必要でしょうか。

 用意するもの

 1,雨ゴート
 2,草履のカバーまたは雨下駄
 3,雨傘

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若い方向きに赤系でそろえてみました。

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夏用の雨ゴートでコーディネート。


以上の3点は欠くべからざる備品でしょう。どれが欠けても困ります。それではひとつずつ説明しましょう。



雨ゴートについて


 着物は絹物が多いです。雨に濡れたら、縮んだり雨ジミが出来て着物や帯が台無しになります。着物の上に着るのですから、しっかりと着物を覆うように着物より大きめの寸法になるように気を付けましょう。

 雨ゴートには自分の寸法に合わせた誂えの物と、出来合いの既製品があります。
 既製品の中には2部式と言って、上下が分かれている形があります。丈は道行のようになっていて、下は腰にぐるりと自分の着物の長さに合わせて巻くように使用します。2部に分かれているため、明らかに2部式と分かります。素材は化学繊維がほとんどです。

 反物から誂えた雨ゴートは、自分の着物を着た時の寸法にきちんと合わせる事が大事です。裾から着物の裾が少しでも見えたら、何のために雨ゴートを着ているのかわかりません。雨ゴートの丈は仕立てるときにとても気を遣います。コートの裾は、着物の裾より5ミリから1センチぐらい長くします。

 最も雨がひどい時には、コートを着る前に着物の裾をたくし上げます。土砂降りのようなときは長襦袢までたくし上げます。このような場合は、つい丈形の雨ゴートですと、コートに袖を通したまま身支度が出来ます。個人的には、自分の寸法に誂えたつい丈のコートが着易いです。また、実際の着物姿としてはつい丈の雨ゴートの形が綺麗ですし、ぱっと羽織れるので支度は便利です。
 一方で、2部式はコンパクトで持ち運びやすい利便性や、正絹より化学繊維が求め易いという価格面もありますから、これは予算と好みで考えると良いでしょう。

 雨ゴートはそうそう創るものではありませんが、最近、お客様の若いときのコートが赤く派手なので、渋く染め直したことがありました。化学繊維のものは、染め変えは出来ませんから派手になったら買い直した方が良いです。

 そのほかに、通年で着る雨ゴート以外に夏用の紗などの雨ゴートがあります。なかなか持っている人は少ないですが、梅雨時の蒸し暑いときや、真夏に着るには冬や春秋に使う雨ゴートでは暑くてたまらないので、あれば便利です。

 いずれにしても雨ゴートがないばかりに、着物での外出をあきらめるというのでは残念な気がします。着物ライフを楽しむためにはどんなコートでも良いですから、傘と同じように考えて用意することを心がけましょう。



雨下駄などの雨の日の足下について


 昔は雨ゴートと雨下駄が雨の日のスタイルでしたが、今は雨下駄を持つ人は少ないでしょう。少々の雨であれば草履の上からすぽっと覆うビニールの雨除けカバーがあります。これなら出先で付けたり外したり出来ますので便利ではあります。草履も傷まないので雨降りの外出には使い勝手が良いです。ビニールの草履カバーは草履屋さんならどこでも売っているでしょう。

 私は雨ゴートを創ったときの残布で雨下駄の爪皮(つまかわ)を誂えて、黒塗りの雨下駄にと用意していましたが、なかなか雨下駄を履いて出かける事は少なくて出番がありません。と言うのも、出先では雨下駄でずっとというわけにも行かず、草履も別に履き替える為に持ち歩かなくてはいけないのです。そうするとつい面倒になってしまい、カバーだけでと言うのが現実です。

 コートとおそろいで創らせた爪皮は、今のところ雨降り用に用意周到にした私のお洒落の満足だけにとどまっていますが、こういう方法もあるということです。
 雨降りの日の足下のスタイルとしては、ビニールの草履カバーよりは跳ねの上がらない高い歯のついた雨下駄の方が格好よく、素敵だとは今でも思っています。



雨傘について


 これは普段と変わらず、折りたたみの傘や手持ちの傘で用途は同じなのですから、深く考える事はありません。雨ゴートを脱いだときに、絹物の着物を傘で濡らさないように気を付けて下さい。

 付け加えますと、洋傘の他に和傘があります。今となっては着物姿にしか似合わない物ですが、和傘はとても風情があります。

 よく旅館にある番傘はごつい物ですが、蛇の目傘は色々な色があり、とても美しい傘です。私も5色ぐらい蛇の目傘を持っていますので、着物やコートに合わせて持ち歩きました。しかし困るのは劇場やホテルのところに設置されている傘置きには、和傘は置く事が難しく、クロークに預けるなど注意が必要です。
 洋傘は柄の部分を上にして立てますが、和傘は持ち手の柄を下にして水を切り立てるのです。傘の頭はどこにも引っかけられず、立てかけるところもない場所ではかえって和傘は不便です。ですから私は出掛ける場所も考えて持つ傘を選びます。



雨具について述べてきましたがここからは番外編です。


 雨ゴートを創るのに、手持ちの着物をコートに再生することも出来ますので、これもひとつの方法です。まず、縮みにくい生地であれば、いったん洗い張りしてから全体に防水加工をほどこしますと雨ゴートになります。これはお洒落な雨ゴートとして楽しいでしょう。
 襟も道中着仕立てや変わり襟にすれば、一見雨ゴートと見えず、防寒のコートとして出来ます。空模様があやしい日の着物でのお出掛けの際には、お勧めのコートとなります。



雨の日にくじけないようにの心構え


 雨の外出にくじけて、やっぱり洋服にしようと思うことは良くあることだと思います。誰にも経験がありますね。

 しかし、お茶会であったり会合であったり、ましてや結婚式の日は雨だからといって変えることは難しいです。どんなに天気が悪くも着物で行こうと決めてあれば、簡単にあきらめるわけには参りません。そのときは、上記で述べたようにしっかりと雨支度ができてさえいれば、恐れることはないのです。支度が不備だと簡単に気持ちが折れてしまうのです。

 日頃より雨の日のための用意も考えていて下さい。用意さえあれば恐れることはないのです。365日晴天とは限りません。台風以外でしたら、たいていは大丈夫なものです。そしてひどい土砂降りに見舞われたら躊躇せずにタクシーを利用するのが賢明です。
 あなたにお洒落心が若干あれば、面倒くさいと思わず雨の日の装いも楽しんで前向きに着物でお出かけ下さい。帰り道は雨が上がっているかも知れませんから。

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