盛夏の着物にトライ
1年で最も暑い季節の7月、8月が巡って来ますと本格的な夏の装いとなります。つまり盛夏の装いです。7月と8月は全く同じ装いと考えて構いません。
よく夏だけは着物は暑くて着ないという方々がいますが、反対に「夏こそ着物を着ます。夏の着物が大好きです」という方がいます。どうしてでしょうか。
あまり皆が着ない中、夏の着物はどの季節よりも特に目立ちます。その魅力を知っておられる方は本当に着物好きな上級者の方です。
汗を止める
汗をかくのがいやだと言われる方が多いのですが、不思議と着物を着ると汗が引っ込むことがあります。
私もかつては緊張感で毛穴が引き締まるためかと思っていたのですが、実はそうではなく、これには半側発汗という科学的な根拠があります。
半側発汗法とは皮膚圧反射を利用した上半身の汗を抑える最も効果的な方法のひとつで、身体の片側に圧を加えると、反対の片側だけが発汗するという原理を利用したものです。
方法は簡単、両脇の下、第六肋骨にあたりから胸のあたり周辺を強めに圧迫すれば上半身の汗はかきにくくなります。
芸妓さん舞妓さんが、胸高に帯を締めて夏でも涼しい顔をして着物を着られるのは、その原理を利用しているからと言われています。顔の汗を抑えることで化粧崩れを防いでいるのです。
この方法を夏の着物に活かすならば、両脇の下から胸のあたりを意識して帯を締めることで、上半身に汗が出にくくなりますので、この事を意識しているかしていないかで汗をかく心配について気が楽になります。帯を締める事は汗を止めるには利にかなっている事だったのです。
「今日は暑いし、汗が出るから着物でお出かけはやめようかしら」…と思わないでぜひ盛夏の着物にトライしてみて下さい。
着物で出掛ける環境は、クーラーや空調設備などの発達により昔よりずっと凌ぎやすくなっているので、着付けをするときにお部屋を良く冷やしておけば、きっと問題無く夏の着物を着られることでしょう。
また私が経験上よく提唱してる事ですが、夏はタクシーに乗ってしまいましょう。
着物を着る日ぐらいは贅沢にドアtoドアで、なるべく炎天下の中を歩く機会を少なくします。着崩れも防げます。
夏物の素材について
着物の素材は大きく分けて、絹では絽と紗になります。そのほかに麻で織られた上布、綿、芭蕉布などもあります。紬類も夏向きに薄く涼しく織られているのもあります。上布には代表的なものに琉球、越後、宮古、能登、八重山などが有名です。
芭蕉布はイトバショウという繊維から織られて広く沖縄で作られています。
主に上記のような素材を盛夏では着用します。糸から先染めした織物の他に白生地から染めたいわゆる、やわらかものの生地には様々な織り方があります。
絽の中でも平絽や駒絽、地紋のある紋絽、絽目に段差がある段絽、絽目が縦になっている縦絽、紋縦絽など絽だけでも産地により色々な織り方で織られている生地があります。
紋紗生地の小紋
同様に紗でも柔らかい生地や張りがある紗、地紋のある紋紗など染めに使う夏の生地は生産量は少ないですが変化に富んでいます。夏の着物に準じて夏の帯の素材も絽綴れ、紗袋、帯絽や紗の染め帯、または夏向きに織られた、かがり帯などがあります。そしてもっと目の荒い羅という素材もあります。
夏の生地は軽やかながらも張りのある生地が涼やかで好まれます。
夏の素材については、過去の着物レクチャー「蝉や蜻蛉の羽に似て」の中でも触れました。
夏の小物たち
夏の着物には、やはり涼やかな絽や紗の帯上げが必要です。帯締めも夏向きに組まれたレース風の物や涼しそうな組み方の帯締めが最適です。足元ですが夏足袋にして草履はあまり暑苦しくない雰囲気の色や素材、たとえばメッシュ風な物とか、パナマなどが涼しそうです。ハンドバッグもそれらに準じた素材が望ましいです。
半襟は正絹の絽の半襟か、紗の半襟が涼しいです。帯留めを付ける場合は夏の趣のあるものを使われるのも良いですね。荷物にならなければ日傘も夏らしくて良いでしょう。季節感を存分に楽しんで下さい。
夏の長襦袢について
夏の襦袢は上布や紬類の着物であれば麻の襦袢が涼しいでしょう。やわらかものやよそゆきの着物の時に着る襦袢は絽が相応しいです。体に馴染みます。
よく汗かきだから襦袢は化学繊維にして後でジャブジャブ洗えるようにとお考えの方も多くいますが、洗える襦袢のためには半襟も襟芯も化学繊維を使うので、絹よりはずっと暑いのを覚悟して下さい。化学繊維の襦袢は体の持つ暑さとか熱が逃げて行かないのでこもってしまいがちです。
利便性を求めるのであれば、それはそれでよいですが絹に勝る物はありません。上の着物によく添う事と首回りと全体が風が通るので涼しいこと請け合いです。
夏こそひんやりとした絹の持つ心地良さも体感して下さい。麻の襦袢も涼しいです。半襟は正絹と化学繊維では全く違います。
しかし、どちらを選ぶかはご自分の体感に準じるか。または利便性優先により決めて下さい。
それから、ひとつ夏の襦袢について注意することは、襦袢丈と着物との間に段差があるとおかしいですので襦袢丈については袷の時期より気を付けて短くしすぎないようにして下さい。透けてしまうので要注意です。
まとめとして
以上、夏の着物、特に盛夏の装いについて話しましたが夏こそお洒落な装いが出来ます。夏ならではの素材感、夏ならではの季節重視の柄を楽しめる事が出来ます。盛夏は、ちょっとしたコツと勇気を持って着て下さい。帯が汗を引っ込ませてくれるでしょう。
7月と8月はおおむね同じ装い方でOKです。汗をかいたと思われた着物は良く乾かしてしまって下さい。汗染みが出来そうな時は汗抜きに。染み抜き屋さんに手入れしてもらい来シーズンには気持ち良く着られるようにしましょう。今回は盛夏に着物を着る方の参考になればと思い述べました。