にょっきり手が出る
近頃はアンティーク着物の流行で古着を求める方達が増えてきました。現代にはない柄行と色に魅力を感じ、今の若い方にはとても斬新で素敵に見えるのでしょう。
日常的に着物を着ていた時代には柄行にも楽しい物が多く、遊びもあり、昔の着物に惹かれるのはよくわかります。 大胆な柄があったり目の覚めるような色であったりします。
そして何よりも求めやすい価格でもあります。目利きであれば掘り出しものにも出会うかもしれないのです。
気に入って手に入れたそんな古着も私の所によく持ち込まれます。材質も様々で、そのような古着を着たいのだけれど、あまりにも小さかったりで、丈もつんつるてんで着ることが出来ずにどうしたらよいのかという相談が中でも最も多いのです。古着屋さんで買われた着物は年代が古いほど小さいものが多いです。
昔の日本女性は身長が150センチ以下という方がほとんどでしたから、現代の日本女性のように平均身長が高くなった今、寸法が全く違うので、そのまま着られるものが少ないのです。
そこで今回は、どうすればアンティークな着物を自分の寸法に仕立て直してうまく着られるか、そのコツについてお話ししましょう。
縫い込みを見てみる
特に手の長さが全く違うので袖を通す時、にょっきりと手が出てしまうのです。これはとてもおかしいものです。裄がしっかりと手首までないと困ります。柄や色が気に入り求めてしまったのだけれど、どうしても縫い直してもこの着物が着たいと言われる方も多く、何とかならないかという相談が多いです。
(裄が短すぎる着物を着た場合の例)
こんな時、私はまず袖付けのところの縫い込みがどれほどあるか探ります。
たいていの着物は幅が狭く、すでに縮んでいたりして袖巾そのものも狭いです。縫い込みを見ると少ししかなくて、せいぜい巾だしをしても見頃からと袖付けから足しても1寸出せれば良い方でしょう。
1寸ぐらいでは、3.3センチなので到底まだ短いのです。
どうしたら袖巾が出せるか
巾のない袖巾はどうしたらよいか、どこから巾を出すのか、考えなくてはなりません。
そこで提案です。生地の横巾がないのですから縦に生地を足して巾を広くするしかありません。どこからその分をもってくるかが問題です。
何しろ残布もなく、どこにも余分な生地はないのですから工夫するしかありません。答えは共衿の部分にあるのです。
共衿は本来、本衿にかかっていますのでこの分の生地をもらいます。そしてこの共衿の生地を利用して袖の巾に縦に足し布をして十分な袖巾をつくります。
両袖の分が丁度共衿の生地から取れるのです。もちろん袖にハギが入ってしまいますが案外目立たないもので、柄物の着物であれば尚更目立ちません。
共衿の処理は
共衿分を袖の巾を出すのに提供してしまったので、当然共衿はなくて衿はのっぺらぼうの様になります。
それでまた一工夫です。つまり本衿に従来掛けてある共衿をあるかのごとくに、本衿の部分をつまんで共衿が掛かっているように見せかけるのです。
そうすると着たときには見た目では共衿がついているように見えます。当然みせかけで本衿に細工をしただけなので、衿の部分は本来の衿が2枚重なっている厚さと膨らみはありませんが、見た感じではかなり分かりにくいでしょう。
このようにして袖巾を出す工夫をすれば手がにょっきりと出なくて済みますので、ちょっとした仕立屋さんの技術のなせる裏技かもしれませんね。
これで裄の短い昔の着物をどうしても着たいとき、仕立て直せば裄の問題は解決するでしょう。困っている方は相談に乗ってくれる仕立屋さんを見つけて下さい。
参考までに
裄の寸法とは 背縫いのところ襟付けの下から方袖の袖口までをまっすぐに計った寸法です。 昔なら大体150センチ前後の身長の方が多いので、裄は1尺6寸5分がほとんどでこの寸法を並といっていました。昔の着物はほとんどがこの寸法です。 現在では並といっても1尺7寸が多いです。 身長が160センチ以上の方は手も長くて、裄は1尺7寸以上から1尺8寸ぐらいです。 長襦袢の裄の寸法が着物に合っていないとおかしいです。
並の裄の長さは
手の長い方は
気を付けること