観劇と着物について
着物を着るチャンスはどんなときでしょうか、数ある理由の中でお洒落をして出かけたい、ドレスアップをしてのお出かけの中にはお芝居や音楽会の鑑賞、コンサートやオペラを聴いたり歌舞伎や文楽、お能などを観に行くなどなど色々あります。
観劇の内容や公演が行われる会場も含めて、さてどんな着物を着ていこうかと考えるのもとても楽しみで心が浮き浮きする気分になります。そして季節に合わせた装いを考えて自分の為に組み合わせを考えたり悩んだりするのもうれしい作業なのです。
最近では歌舞伎を観に行く着物姿の方々が多くいらっしゃいます。若い方も増えているのに驚きますと同時にとても嬉しくなります。伝統芸能の舞台を観るのに着物で座っているのは舞台で演じている役者さんからも、案外客席が見えているのだという事を聞いた事がありました。そして着物姿が多いのは華やかでうれしいとも話もされていました。
着たい着物が原則
さて、観劇当日にどんな着物を着て行こうかと思うときに、絶対にこの種類の着物でなくてはならないなどと言う原則は基本的には何もありません。好きな着物を好きなように着て楽しい気持ちで出かけるのが原則ですから、難しいことは何もないのです。
紬類が大好きであればそれでよいし、小紋のような柔らかものでも良いですし、日頃着たいと思う着物に袖を通し、帯を組み合わせて、小物を合わせて出かければ文句ありません。それこそ自由にお洒落を楽しむことが大事なのです。
しかしながら何でも良いと言われても、これから着物で観劇を楽しみたい、着物姿で劇場デビューを考えていらっしゃる方があれば、私の何十年かに渡る「劇場へ着物で出かける」経験が少しでもヒントにまた参考にして頂ければうれしく思います。
私なりのこだわりと独断もありますので、あくまでも例として、こんな着物の選び方もあるのだと思って頂いて、持っている着物や帯を自分らしく存分に生かしてみて下さい。
久しぶりに着る着物は虫干しだと思い、また一緒に着物にもお芝居を見させてあげるぐらいに楽しんで下さい。
それでは、様々な機会に着物で観劇した時の着物と帯の組み合わせに自分の想いも盛り込んで装った日の例ををいくつか挙げてみましょう。
ある日ある時の記憶をたどるままにいくつか書き連ねてまいります。少しでも参考にして頂ければうれしいです。
1 東京文化会館 着物:縮緬地鉄紺色に手描きの細いよろけ縞が、淡いピンクと白だけで表されている蠟ケツの小紋。 2 歌舞伎座 着物:黒地に半分ほどが白で雪のように吹き蠟してあり、ところどころ小さな蝶が黒で抜いてあるもの。 3 テアトル銀座 着物:この年初めての観劇なので、干支の小さな兎が絞りになっている小紋。 4 新橋演舞場 着物:冬らしく、黒地に白のたたきで雪模様柄。 5 北鎌倉H邸サロン 着物:木版の桜薄墨濃淡。 6 東京オペラシティ 着物:水色地に麻の葉の蠟ケツのせき出し小紋。 7 蓼科音楽ホール 着物:秋を想わせる、薄茶色に木版の麻の葉の連続模様で、共濃いで刷毛引きのしてある小紋。 8 国立小ホール 着物:お召しで、茶と黒の大きな格子柄の粋なアンティークもの。 9 九段靖国神社 着物:藤色に桜の裾模様訪問着。 10 三浦半島岬港 着物:七月なので、夏大島黒地を。 11 サントリーホール 着物:紫地の御所解き模様の総手描き小紋。 12 雅叙園 着物:二月なので、グレーぼかしに梅の木版の着物。
どんな場所で?
何を観たり聴いたり?
どんな装い方で出かけたの?
オペラ
「薔薇の騎士」
帯:ローズ地色の塩瀬に白上りで薔薇が描かれたもの。
小物:瑪瑙のグリーンで薔薇の葉を想わせる帯留め。
二月の梅に
ちなんだ演目
帯:黒地に白梅の染め帯。
小物:黒に白の総絞りの帯揚げ。
新春歌舞伎
帯:雪持ち笹の摺箔の帯。
初春歌舞伎
帯:黒地塩瀬の雲柳の柄を白上りで染めたもの。
春のお花見コンサート
帯:黒地織り袋帯銘物布散らしの柄。
小物:桜模様の銀色のバッグ、黒台に銀の鼻緒の草履。
オペレッタ
「コウモリ」
帯:小鳥と花の楽しい柄のひわ色の塩瀬の染め帯。
歌とピアノの
コンサート
帯:黒地塩瀬の紅葉の帯。
落語の会
帯:紬のベージュ色の染め帯。更紗模様。
夜桜薪能
帯:和楽器尽くしの柄のブルー地織りの袋帯。
漁り火能
帯:絽の鉄線の花の紫地染め帯。
小澤征爾
クラシックコンサート
帯:白地に蝶々の染め帯。
小唄の会
帯:黒地で大きな蝶一つの染め帯。
まとめに
書き連ねていけば際限がありませんが、様々な場所で様々な着物を着た事は思い出すとその時に見た芝居やコンサート、一緒に行った友人まで鮮明に思い出すから不思議です。 着るものに心を砕いたりして出かけたことは、思い出として膨らみ印象に残るのは充実した贅沢な刻を過ごせたと言うことでしょうか。
洋物のコンサートや演劇、知り合いの方が出演している場合は、なるべくお花の帯を締めます。花束を持って行く代わりの気分で、どちらかというとモダンに軽やかにします。 和物のお芝居では、演目によって粋にしたりクラシカルにしたりするように、装いも千差万別にして、落語を聴くときはカジュアルに小粋になど、自分ながら楽しんでいます。
いつも同じようなスタイルではなく、変化を付けて衣装を着けることは、まんべんなく箪笥の着物や帯に風を入れるので良いですし、気がつかなかったシミも発見することもあります。芝居や音楽会での着物姿が一人でも多くなることを願っています。
着物好きの皆様、ぜひ一度、着物姿で劇場に参りましょう。劇場内に入れば貴方も舞台の一員であることをお忘れ無く、素敵な時間を共有いたしましょう。