羽織ふたたび
私の手元に昔の写真があります。昭和10年前後から15年前後の市井の若い女性たちの写真です。年齢も17、8歳位から20歳前半というところでしょうか。
中には赤ちゃんを抱いている人もいます。この時代はまだ戦争前でよい頃だったのでしょう。
一様におっとりとした面差しをしています。そして必ず羽織を着ているのです。
色々な種類の羽織が見受けられます。若い女性の羽織の柄はなかなか大胆です。
丈について注目してみましょう。写真を見れば分かるように昔はとても長かったのです。着る方のふくらはぎくらいまであります。戦前は皆このくらいまでの丈だったようです。今見るとなんと優雅な長さでしょうか。
この頃では、あまりというより、ほとんど着る人の少なくなってしまった羽織の話について触れてみましょう。
羽織丈は時代につれて
私が物心ついてから、母たちの羽織姿が記憶の中にあるのは、学校の父兄会とか、たまの外出の時、お正月ぐらいです。その頃はもう写真ほど丈は長くはありませんでした。
物のない時代が続いた戦後のせいでしょうか。倹約精神のためでしょうか。4丈物で2枚羽織をとるのが大流行でした。
おとなが、誰かと誰かで組んで2枚の羽織を算段していた会話なぞが、子供だった私の耳にかすかに残っております。
4丈物といえば16メートル程あるのですが、これで作る羽織は、入れ子の様にして衿幅を反物の半分の幅で一人分取り、残りの半幅でもう一人分取る方法で、二人で4丈の反物を1反買えば良かったのです。これは、おそらく時代の要求に合っていたのでしょう。 ちなみにご存じでしょうが、着物の一反分の用尺は3丈物といっています。
その他に、まちのない茶羽織も流行りました。これは短い丈で、昭和20、30、40、50年代と羽織丈は、せいぜい腰が隠れる位の丈で、コートはそれより少し長ければ良いと言う時代が最近まで続いていたと思われます。
50年代までは羽織をまだ着られる方もいらして、黒の絵羽織、絞りの羽織を作られた方も多くいたと思います。
それ以後羽織を作る方、着る方は急速に減ってしまったことは残念なことです。理由は色々あることでしょう。キモノ離れ、社交着や式服が主流になった着物の世界では、羽織の出る幕がなくなってしまったからでしょう。
こんな風潮が長くありましたが、嬉しいことに最近、羽織の良さに目を向けて下さる方が、ぼちぼちと増えつつあることを実感しているのです。それも優雅だった昔の羽織に興味をもたれているようです。
これからの羽織は
さて、最近羽織を着てみたいと思われる方はどんな理由からでしょうか。私なりに考えてみました。一時、羽織は着ないでコートばかり増やす事が多くなっておりました。どうしても訪問着などしか着る機会の無い方には、羽織は要りません。
でも着物を日常的に着る楽しさ、うれしさを知る方にとっては、羽織を着る、羽織ると言うことは、特別のことではなく、むしろ必要なことなのです。
ちょっと帯付きだけで歩くには肌寒いとき、コートを着るほどでもないと思うとき、近くにお出かけ、気楽な集まり、お食事会など、、
羽織は着たままで良いのですから、衿もとが寒ければショールをして凌げば良いでしょう。着物を様々な場で着てみたいと思うほど、羽織も便利な物と気づかされることになります。
服で言えばカーデガン、ジャケットの役割でしょうか。防寒、塵よけの役もあるでしょう。なにより脱ぐ必要がないのも楽です。帯も前の柄は見せられるけれどオタイコの形はちょっと心配と思うときに便利かもしれません。
それからもうひとつ考えられるのは、この頃の、気候のせいではないでしょうか。昔ほど寒くありません。
以前は真冬には羽織の上にコートを重ねて着たものです。今は、冬はコートだけ、本当に寒くなるまで結構羽織でも良いかもしれないとさえ思うのです。
但しここでちょっと提案です。昔の長さに憧れるのなら是非長めに仕立てて下さい。昔より生地も良いので、どっしりとするはずです。ですから羽織とはいえ、まるでコートを着ているかのような重量感さえあります。
当然暖かいですから丁度、現代の羽織は、コート代わりにもなるような要素も含まれています。そこの部分で昔とはほんの少しニュアンスが違う気がしています。
それはそれで、時代は動いているのですから現代の感覚で羽織を上手に取り入れてみてはどうでしょう。
ふたたび写真を見てみると羽織姿って何故か色っぽく女らしく感じませんか。
背も低くそれほど主張もしなかった昔の女性達はこんなにも大きな柄で華やいでおります。
21世紀の女性達ならもっと着映えがするはずです。今らしく羽織を復活させて欲しいものです。羽織をどんどんと着ると言うことは、とりもなおさず着物を着る機会が日常的になる兆しでもあります。
わからないことがある方には、私も出来るだけアドバイスして行くつもりです。